岡山弁の一つに「おんびん」という言葉があります。
これは「臆病者」とか「勇気のない人」またはその状態を表す言葉です。
普通、岡山県人はこの言葉を使うとき「おんびんたれ」とか「おんびんくそ」などと強調する形で使います。
なぜに岡山県人はこのように言葉を汚く汚く使おうとするのか、岡山県人の私でさえ不思議です。
本当に岡山県人の言語感覚は摩訶不思議としか言いようがありません。
想像しやすい場面としては夏休みのある日、川で男の子たちが飛び込みをして遊んでいるとしましょう。
ちょっと深い場所で飛び込もうということになったとき、勇気のある一人の少年が「エイッ」とばかり見事に飛び込んだとします。
本当は勇気ある少年だか単に無謀な悪ガキだかわかりませんが。
それを見ていた他の少年たちが我も我もと次々と飛び込んでいきます。
ところが最後に残った少年だけがどうしても飛び込めません。
そんなとき川から上がった少年たちが
「なにしょーんなら。よう行かんのんか。おんびんたれじゃのー、おめーはー。」
などと言ったりします。
ちなみにこの中には岡山弁が豊富に盛り込まれていますね。
これを共通語に翻訳すると
「なにしてるんだよ。行けないのか。臆病者だね、君は。」
となるでしょうか。
こんなスマートな会話は岡山のガキ・・・いや、お子様たちはしません。
特に祖父母や年長者などと一緒に暮らしている場合、子供たちもどっぷり岡山弁に染まってしまいます。
たとえ女の子でもです。
「うち、タッ君に告白ようせんわー。じゃって断られたら恥ずかしいもん。」
「あんた、おんびんじゃなー。ええが、言うてみんとわからんじゃろ。」
あえて翻訳はしませんが、意味はお分かりかと思います。
ま、女の子の方が多少なりともおとなしくそしてかわいらしく聞こえてくるかもしれません。
あくまでも「女の子」の場合です。
これが「おばはん」になるととんでもなく超ド級の岡山弁になったりします。
「ちょっとあんた、あの店へ行ってみられー。でーこんがぼっけーやしかったんじゃけー。」
「ほんまかなー。ほんならうちも行ってみらー。でーこんてーて今晩のおかずにしょー思うとったんじゃー。」
まあ、好きにしゃべってください。
なぜにそんなに汚くしゃべる?わざとか?
おやじから言われた「おんびん」
中学3年の時、受験を控えた私は学校から私立の受験をどうするのかというアンケートをもらって帰りました。
父親に相談したところ、
「うちは金がねーんじゃけー、県立一本でええ。」
と言われました。
私は唖然愕然、県立一本でしかも県内一番の難関と言われる高校を受験しようというのですから。
「落ちたらどうするん?」
私は恐る恐る訊きました。
すると親父は
「なに、おんびんなことを言うとんなら。落ちたら落ちたで丁稚にでも行って夜間高校へ行きゃーええがな。世の中なんぼでもそんなもんはおるがな。」
とのたまいました。
私は正直びびりました。
本当に落ちたらどうしようか、きょうび丁稚って、昭和初期じゃあるまいし。
でもそのあと親父は
「やる前からおんびんくそでどうするんなら。腹にどっと力を入れて性根入れていけ。落ちても死にゃーせん。」
と言ったのです。
説得力があるようなないような、妙に気持ちだけは落ち着いたような、そんな気がしました。
結果、受かったんですけどね。
いや、自慢でもなんでもありません。
自分でもまぐれだと思っていますから。今でも。
でも親父に感謝です。
後がない状況を作ってくれたおかげで集中して受験勉強ができ、試験当日も開き直りの精神で受験できたような気がします。
草葉の陰の親父に今でも感謝・・・です。