岡山弁講座です。
岡山県人でも若い人はあまり使わないかもしれませんが、「はしる」という言葉があります。
いや、「走る」は標準語で誰でも使うだろう、と思った方は残念でした。
「走る」と言えばそう、走るのです。片足ずつ前に出して宙に浮くようにしながら。
などと説明しなくても走るという言葉はわかりますよね。
駈けっことか100m競争とか・・・走るのです。
ところが岡山弁で「はしる」と言うと「浸みる」とか「浸みて痛い」という意味になります。
分かりやすい例でいうと痒くてたまらないところをかきむしった後でキンカンを塗るとどうなりますか?
浸みて痛いですよね。
それがまさに「はしる」という状況なのです。
私たちが子供の頃は「うー、はしる~!」とよく言っていたものです。
最近は聞きませんね~。
今の子供たちは岡山弁を忘れているのでしょうか。
子供たちというよりその親御さんたちが若い世代になって行って段々と岡山弁を使わなくなっているんでしょうね。
寂しい限りです。
「はしる」に関する想い出
小学校3年生のときに私は珠算教室に通うことになりました。
兄が先に通っていたので私も珠算を習うことになったのです。
自分の意思というより親の勧めでした。
その珠算教室に申込みに行くときに兄が付き添ってくれました。
自転車の後ろに私を乗せて珠算教室まで未舗装の道路を疾走していたのでした。
二人乗りはいけませんが、当時は緩~い時代だったのです。
私は自転車の後ろに乗って、初めて通う珠算教室について兄に質問をしまくっていました。
「どこに座ったらええん?」
「先生が教えてくれる。」
「最初は分からんかもしれん。」
「誰でも最初はわからん。じゃから習いに行くんじゃ。」
「どのくらいで慣れるじゃろうか?」
「そりゃー、おめー次第じゃ。」
などと次から次へと質問していました。
しまいには兄も辟易としたんでしょう。
「とにかく行きゃーわかる。サボらんように行け。」
と言って話を終わろうとしていた時でした。
砂利道にハンドルを取られグラグラっと揺れたかと思う間もなく自転車は倒れてしまい、私と兄は転んでしまいました。
そのとき、兄は砂利道へ、私は不幸にも用水路に落ちてしまいました。
これを「ドブにはまる」と言います。
そして「はしる!」と叫んだ
兄にドブから救い上げられた私は泣きながら歪んでしまった自転車の後ろにまたがり、今度はおとなしく珠算教室まで運ばれていったのでした。
初めて会う珠算教室の先生は目を丸くして
「どしたん!?ドブにでもはまったん?」
と尋ねました。
「ハイ、その通りでございます。」
とは軽口を叩けず、ただうなずくのみでした。
そのとき、先生の奥さんがお風呂に入れてくれ、着替えを貸してくれたのでした。
そして傷口に赤チンだか何だかの消毒液を塗ってくれたのです。
そのとき私は
「うー!はしるー!!」
と思いっきり叫んだのです。
でも優しい先生と奥さんで良かったです。
涙を拭きながら私は説明を聞き、兄と共に夕暮れの砂利道を今度は自転車を押しながら帰りました。
それから珠算教室には6年生まで通い、準2級という中途半端なランクまで行きました。
今では良い思い出です。